泉質名はどのように決まるのか2(命名の基本)

さて、前項の判定を終えた後は、実際に命名に入ります。このページの内容はおそらく慣れないうちは訳が分からないと思いますが、たくさん分析書を見ているうちに(たぶん)わかるようになります。
まず、もう一度療養泉の3分類を示しておきます。

①「単純温泉」
②「塩化物泉」「硫酸塩泉」「炭酸水素塩泉」
③「硫黄泉」「酸性泉」「含鉄泉」「含ヨウ素泉」「二酸化炭素泉」「放射能泉」

②のグループは「塩類泉」、③のグループは「特殊成分を含む療養泉」と言います。

【命名の基本】
泉質名は基本的に以下の書式で書きます。

(特殊成分)―(陽イオン主成分・副成分)―(陰イオン主成分・副成分)

・と―は重要です。ちゃんと使い分けないと全く別の温泉になっちゃうこともありますよ。

【①単純温泉のみの場合】
これは簡単で、「単純温泉」となります。当たり前ですね。なお湧出地でのpHが8.5以上の場合は「アルカリ性単純温泉」と書いてもよいです。

【②塩類泉の場合】
まずガス性のものを除く溶存物質が1000 mg 以上であることが前提です。塩類泉の場合、陽イオンと陰イオンの名前の記載が必要になります。記載するのはmval%で20以上のイオンすべてです。
例えばナトリウムイオン50 mval%、カルシウムイオン40 mval%、その他陽イオン10 mval%で、塩化物イオン60 mval%、硫酸イオン30 mval%、その他陰イオン10 mval%という場合を考えると、

ナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩泉

となります。

主成分とは、陽イオンまたは陰イオン内で最も多い成分、副成分とはそれ以外で20 mval%以上の成分のことを言います。そしてかならず主成分・副成分の順で記載します。つまり同じような名前でも、

カルシウム・ナトリウム―塩化物・硫酸塩泉

これだとナトリウムよりもカルシウムのほうが多い、主成分であるということになり、温泉の性格が変わってきます。
副成分は、20 mval%以上のものについては多い順にすべて記載します。例えばナトリウムイオン30 mval%、カリウムイオン25 mval%、マグネシウムイオン21 mval%、ストロンチウムイオン20 mval%、その他陽イオン4 mval%で、炭酸水素イオン50 mval%、塩化物イオン30 mval%、硫酸イオン20 mval%の場合だと、こんなことになってしまいます。

ナトリウム・カリウム・マグネシウム・ストロンチウム―炭酸水素塩・塩化物・硫酸塩泉

なげーな!

【③特殊成分を含む療養泉の場合】
これは簡単で、先頭に特殊成分名を書くだけです。例えばさっきの、

ナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩泉

これがさらに含鉄泉の条件も満たしていたとすると、

含鉄―ナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩泉

となります。さらに酸性泉でもあった場合は、

酸性・含鉄―ナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩泉

となります。特殊成分が複数ある場合は、酸性・含硫黄・含二酸化炭素・含放射能・含鉄・含ヨウ素の順に記載します。

また塩類泉ではなく、特殊成分を含む療養泉の条件のみを満たす場合は、単純温泉の条件すなわち泉温25℃以上という条件を満たしていなくても「単純」という名称をつけてよいということになっています(泉質名における「単純」とは「塩類泉でない」という意味です)。例えば「硫黄泉」で「泉温25℃未満」の場合は、

単純硫黄冷鉱泉

となります。これが「硫黄泉」かつ「泉温25℃以上」だと、

単純硫黄温泉

となります。ちょっとややこしいですね。しかもこの2つはどちらも、

単純硫黄泉 (または硫黄泉)

と書いてもよいことになっています。つまり末尾の「泉」は泉温によって「温泉」または「冷鉱泉」に置き換え可能ですが、絶対に気にしなければいけない項目ではないということです。なので塩類泉であっても、

ナトリウム―塩化物泉

これを泉温が25℃未満である、ということを強調したければ、

ナトリウム―塩化物冷鉱泉

と書いてもよいのです。ただし次のように、塩類泉でなく、特殊成分が複数ある場合はかならず「温泉」または「冷鉱泉」で書かなければいけません

「硫黄泉」かつ「含鉄泉」で「泉温が25℃未満」の場合

含硫黄・鉄―単純冷鉱泉

つまり「単純泉」という単語は使えないということですね。また塩類泉でなく特殊成分を含む療養泉の条件のみを満たす場合は、単純温泉の場合同様、pH8.5以上では「アルカリ性」の文言を入れてもよいです。例えば上記の温泉がpH8.5以上だった場合は、

含硫黄・鉄―アルカリ性単純冷鉱泉

と書いてもよいということになります。

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