「温泉」ってなんだ?

「温泉」の定義は、実は2つあります。しかもここに、「鉱泉」というものも絡んできます。これは温泉ソムリエの講義でも少し話に出てくる項目で、気になっている人もいると思います。

では順番に説明していきます。

まず温泉法で定義される「温泉」。以下①とします。

温泉法第二条
この法律で「温泉」とは、地中からゆう出する温水、鉱水及び水蒸気その他のガス(炭化水素を主成分とする天然ガスを除く。)で、別表に掲げる温度又は物質を有するものをいう。

次に鉱泉分析法指針で定義される「鉱泉」。以下②とします。

鉱泉分析法指針1-1
鉱泉とは,地中から湧出する温水および鉱水の泉水で,多量の固形物質,またはガス状物質, もしくは特殊な物質を含むか,あるいは泉温が,源泉周囲の年平均気温より常に著しく高いもの をいう。 温泉法にいう「温泉」は,鉱泉の他,地中より湧出する水蒸気およびその他のガス(炭化水素を 主成分とする天然ガスを除く)を包含する定義である。

かつ鉱泉分析法指針では、②のうち泉温が25℃以上のものについて、「温泉」、それ以下のものを「冷鉱泉」と定義しています。これを③とします(ちなみにそれぞれの法で言及されている「温度」は25℃で、「物質」の内容は共通です)。

つまり簡単にいうと、こういうことです。

①地面から湧いた水(液体・気体、25℃以上または特定の成分含む)は「温泉」 (温泉法)

②地面から湧いた水(液体、25℃以上または特定の成分含む)は「鉱泉」 (鉱泉分析法指針)

③地面から湧いた水(液体で25℃以上)は「温泉」、25℃未満は「冷鉱泉」 (鉱泉分析法指針)

…これでもよくわからないので、表にしてみました。onsen difどうでしょうか。

気体については鉱泉分析法指針では定義されていないので矛盾はないですが、液体で25℃未満かつ特定物質を含んでいる場合は、温泉と呼ぶべきか冷鉱泉と呼ぶべきかが定まっていないということになります。もっと正確にいうと、これを「温泉」と呼ぶことは鉱泉分析法指針からして間違っている、ということです(温泉法は「冷鉱泉」と呼ぶことを否定していないが、鉱泉分析法指針は「温泉」と呼ぶことを明確に否定しているため)。

しかし、よくよくこの2つの文章を読んでいると、やはり我々入浴者はこれを「冷鉱泉」と呼ぶべきであるということに気づきます。

温泉法の定義する「温泉」とは、必ずしも入浴に用いるものとは限りません。地熱発電だったり、動力として利用したり、使い道はともかく「地面から出るちょっと特殊な水または蒸気」を利用する際の制限について書かれています。そしてもしそれを公共の入浴に使うとなれば、鉱泉分析法指針に従って細かく分析して、所定の手続きを踏みなさい、と書いてあります。つまり温泉法のいう「温泉」の範囲は、我々一般人の考えるいわゆる入浴施設よりも、もっと広いものであるといえます。

そして我々は「入浴施設としての温泉」に興味があるわけです。公共の入浴に供する場合の種々の規定は完全に鉱泉分析法指針に一任されています

「温泉」の呼称について議論するとき、その対象が入浴施設であることを前提としている時点で、温泉法を持ち出すことは実はナンセンスであるといえます。

※鉱泉分析法指針が、温泉法の定める「温泉」のうち気体を扱っていないのも、この指針の立ち位置を考えるうえで参考になります。「温泉」を公共の入浴に使用する場合は分析が必要ですが、気体には溶存物質なんてものがないので、分析できないというわけです。

…それにしても、温泉法と鉱泉分析法指針が違うものとはいえ、定義が異なるものに同じ名称を与えるのはどうかと思いますけどね。何かほかにいい名前なかったんでしょうか。

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